【連載】毎月22日は # ふうふの日|ショートストーリー
この数年、エンジニアの夫は在宅勤務がメインになった。
若い頃は一週間出張、なんてザラだったけれど、
こんなに家にいるようになるなんて。嬉しくもあり違和感もあり。
「体を動かさないから、腰が痛いよ」と言うので、
毎朝10分、二人で散歩をすることにした。
たった10分、されど10分。
朝日がまぶしかったり、雨が心地よかったり。
この前は、金木犀の香りがふわっと漂ってきた。
周りを見回すと、軒先に見事に咲いている。
「見て、秋だねぇ~。いい香りっ」と言うと、
「おぉ本当だ」と一言。
…季節に興味がないんだか、私の話に興味がないんだか。
一緒に暮らして二十年経つけれど、
まだ何を考えているのか、わからない時もある。
数日後。
久しぶりに出社した夫が、ビオレのハンドソープを買ってきた。
手をかざすと泡が自動で出てくる。金木犀の香りだった。
「これ、高かったんじゃない?」
「機械っぽくない形がいいなと思って。
香りも好きそうなのを選んだんだ」
「私の話、聞いてはいるのね?」と笑うと
「もちろん~」と、調子のいい返事。
ハンドソープで手を洗い、香りが鼻に届くたび、
なんてことないやり取りを思い出すようになった。
花王 作成センター
ふうふのショートストーリーをお手元で読んでいただけるように
カレンダーにしました。ぜひダウンロードしてみてください。