
【連載】毎月22日は # ふうふの日|ショートストーリー

「あ、冬のにおいがする」
「ほんとだ、いつの間に」
仕事終わり、家までの帰り道。月明かりに照らされながら、二人並んで空気をかぐ。鼻の奥にくる、少し燻されたような、巡る季節のにおい。
「この間まで金木犀だったのに」
「冬ってせっかちだなぁ」
「もっとゆっくり来てくれていいのに」
私の好きな人は、小さな季節の変化を捉えられる人だ。季節だけでなく、人の変化にも、すぐに気づく。
今日もふと顔を覗き込んで聞いてくる。
「あれ?メイク変えた?」
「いや、マスカラ下地だけ塗ってる。よくわかったね」
「目がくっきり見える気がして」
「さりげなく盛れるんだよね、これ。しかもあのケープから出てるんよ」
まさかだよねぇ、しかし君の観察力は流石だな、と笑っていると、目の前に現れた街路樹を見て思い出した。
「ねえ、そいえばあの木、葉っぱがなくなって影がハート形に見えるようになったの、知ってた?」
「えっ、どれ」
ほんとだ、冬支度だねぇ、と写真を撮る横顔を見て思う。世界の小さな変化に気づいたとき、伝えたいと思える相手がいる。それって当たり前じゃなくて、幸せで尊いことだよな、と。
急に胸がぎゅっと熱くなる。髪を払うふりをして、そっと目尻を拭った。
花王 作成センター

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