2023年7月25日
特集!
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洗いたてのタオルやシーツ、シャツを身に着ける心地よさ…衣類を清潔に保つために欠かせない「洗濯」は、ライフスタイルや技術の進歩によって、時代ごとに変化してきました。そんな「洗濯」への思いや習慣、環境の変化を日頃家事をしている既婚女性たちのデータを中心に読み解き、「洗濯の今」をご紹介します。
【紹介する人】
沖 俊宏
花王株式会社 ファブリック&ホームケア商品事業開発センター
ファブリックケア商品開発部長
入社以来、洗剤の研究と開発一筋約30年。
INDEX
「洗濯」は「好きな家事」の上位に入る家事ですが、ここ10年、既婚女性では好きな割合が、年々低下傾向にあります。2012年と2022年を比較すると、特に20代では45%→21%、30代では40%→29%と、若い世代では3割を切っています。
その背景の一つに、2000年以降、共働き世帯の数が専業主婦世帯を上回り、2022年には勤労者世帯の約7割が共働き世帯(出典:総務省統計局「労働力調査(詳細結果)」)となり、家事時間が大幅に減少したことが考えられます。
それでも、家庭の中では女性が家事をする比重がまだまだ高く、働く女性は忙しい生活の中で洗濯などの家事をしている状況になっています。
そんな忙しい既婚女性はいつ洗濯をしているのでしょうか。平日に洗濯を始める時間は、30~60代では「午前9時より前」が6割前後と多く主流です(※1)。できるなら朝のうちに済ませ外に干したい、乾燥機は電気代やガス代がかかる、大量の洗濯物を部屋干しするスペースがないなど様々な理由から、平日の忙しい時間の中で朝洗濯する人が多いようです。
一方「午後6時以降」に洗濯する割合は、年代が下がるほど増える傾向にあり、20代では27%にのぼります(※2)。
子どもが小さかったり、洗濯物がさほど多くない若い世代の場合は、あわただしい朝をさけ、仕事から帰って夜洗濯するなど、どの世代も自分のライフスタイルにあわせて、少ない家事時間をやりくりしているようです。
また、比較的時間に余裕がある休日は、全世代ともに朝から昼間に洗濯を済ませる人が多くなっています。
「洗濯」は、「干す、たたむ、しまう」など機械任せにできないプロセスも多く、手間や時間がかかる家事です。
日々細々とやることが増え、時間的余裕がない20~30代既婚女性にとって、優先したいのは仕事や家族との時間、自分の時間。洗濯という一連の流れはタイムテーブルに組み込みにくく、家族のために清潔な衣服を着せたい思いはあるものの、「やらなくていいなら、やりたくない家事」というのも本音のようです。
服がキレイになるのは気持ちいいとは思うけど、余裕がないと一気にやりたくなくなる。(30代)
洗濯は好きではないけど、家族の服はキレイにしたい。(20代)
衣類の仕上がり、プロセスを色々工夫しているが、効率が悪い。(30代)
洗濯に労力はかけたくないけど、失敗はしたくない。(30代)
洗濯機や洗剤もライフスタイルに合わせて、洗濯がより快適になるよう時代とともに変化してきました。
1990年代以降、全自動洗濯機が主流になり、便利になった反面、洗濯機の中でどのように洗濯が行われるかは見えなくなり、洗濯は洗濯機まかせの家事へと意識が変わっていきました。
また、世界的に水資源に配慮する時勢から、今では少ない水で洗う節水型の洗濯機が定番となり、乾燥の工程までこなすドラム式洗濯機も普及してきました。
一方、洗濯機の大容量化も進み、30~50代の既婚者の家庭では、「8~9kg台」「10kg以上」の大容量洗濯機が主流になりつつあります。これは、子どもの成長とともに洗濯物の量が増加し、なるべく一度に大量の洗濯物が洗える大型の洗濯機のニーズが生活者の間で高まったためです。
さらに、洗剤や柔軟剤の自動投入機能搭載など、洗濯機の省力化・多機能化は今後もいろいろ進んでいきそうです。
洗剤にも大きな変化がありました。
2006年には約8割を粉末洗剤が占めていましたが、2021年には液体洗剤が約8割を占めるようになりました。
これは、全自動洗濯機の普及により、液体洗剤の溶けの良さ、洗浄力の向上、仕上がりの高品質・高機能化、置き場所を選ばないコンパクト容器、エコにも配慮したつめかえボトルの再利用など、生活者が求める洗剤としていろいろ進化した結果です。
生活者が洗剤を選ぶ際に重視する「落としたい汚れの視点」も変化してきました。
一般的に白無地の木綿衣料が減り、泥汚れなどのハードな汚れも少なくなってきたことにより「白く洗い上がる」を重視する割合は2005年の48%から2021年には38%にまで減少しています。
一方で「いやなニオイが取れる」「除菌ができる」といった目に見えない汚れに対するニーズの高まりから、2021年ではそれぞれを重視する割合は61%、55% と高まっています。
特に「いやなニオイが取れる」は、部屋干しや生乾きのいやなニオイの他に、衣類に残った皮脂汚れが原因のニオイも含まれていると思われます。これは、ファストファッションの普及で、皮脂汚れが残留しやすい化繊の衣類が増えたことから、高まってきたニーズです。
さて、ここからは花王の洗濯用洗剤の開発について、お話しいたします。
洗剤の開発では、実際に生活者のご家庭を訪問し、家庭内の空気感や生活動線を知り、生活者と同じ目線で皆さまがどんな課題や悩みを抱えているか直接話をうかがうことを大事にしています。これが洗剤づくりの大きなヒントになります。
例えば、キャップの目盛りを読みにくそうにしているシニアの表情や、小さな子どもを抱っこしながら計量する母親を見て、片手で1プッシュで計量できる容器を作りました。
また、自宅で介護をしている方は、介護をする負担に加え、尿臭や体臭のニオイに悩まされていました。実際に訪問した時、その悩みの深さを身をもって知り、少しでも日常の介護を快適にするために、洗浄力が高く、ニオイをブロックする洗剤を開発しました。
全自動洗濯機が普及してから生まれた若い世代は、洗濯機の中で、汚れがどのように落ちるか知る機会がなく、洗濯にあまり関心がないようです。そのため、汚れや衣類に合わせて洗濯する、私たちが思う洗濯の当たり前がありません。
例えば、冒頭でもご紹介した20~30代既婚女性たちは、時間に追われる中、なるべく一度で洗濯を終わらせたいことから、洗濯機が大容量になっても、知らないうちに「つめこみ洗い」となり、洗濯しても汚れ落ちが悪くなっている実態があります。
その一方で、YouTubeやSNSの動画を見て、少しでも満足できる洗濯になるよう工夫する人もいて、洗濯においても情報格差が発生していると感じています。
洗剤メーカーとしては、このような実態をもとに、皆さまの暮らしに役立つ情報は何か?をいつも考えながら、洗剤づくりをしています。
また、くらしの多様化という点で、ひとり暮らしの若い男性に注目すると、彼らは洋服にこだわりはあるものの、洗濯への関心は薄く、洗剤もコンビニで購入する傾向にありました。そこで、流通グループと共同開発で、コンビニでも手軽に購入でき、柔軟剤なしでもふんわり、シワになりにくい洗剤を発売しました。
生活者だけではなく、エコやサステナブルな視点も洗剤づくりには欠かせない要素です。洗濯で「すすぎ2回」が当たり前だった中、「すすぎ1回」で済む洗剤を開発し、今では「すすぎ1回」の洗剤が過半数にのぼるまでになりました。
また、今までほとんど使われなかった、洗剤の原料となるヤシの実の食べられない部分から基剤を作ることで、環境、食糧問題にも取り組んでいます。
さらに、使用済みの詰め替えパックをリサイクルした材料を一部に使用している詰め替え容器も開発。今後は他社との協働により、ますますの普及を目指しています。
私も一生活者として、毎日洗濯しています。そこから気づくことも多いんですよ。
我が家は、子育て世代の6人家族ですが、朝早い私が洗濯機に洗濯物をセットし、洗いをスタートして出社、妻が干すという家事シェアをしてます。洗濯物はなるべく外に干したい派なんです。子供たちは、自分のことに忙しくお手伝いまでしてくれませんが(笑)。
私にとって洗濯とは『Refresh&Charge』、次の日に向けて、整える行為です。家族の次の健やかな暮らしを応援するのが洗濯だと思っています。
そんな風に洗濯のことを思うと、洗濯もちょっと素敵な家事に思えてきませんか?
その洗濯をもっと快適な家事になるよう、私たちはこれからも、洗剤メーカーとして全力で生活者の皆さまを応援してまいります。
調査概要
「お洗濯についての意識実態調査」
◎2005年、2006年、2010年、2015年、2016年、2021年/訪問調査/首都圏在住20~50代既婚女性/各389人、448人、450人、517人、438人、461人
「生活者の暮らしに関わる意識と行動」
◎2012年9月、2022年9月/インターネット調査、郵送調査/首都圏在住20~60代既婚女性/各938人、921人
「ミレニアル世代の家事調査」
◎2019年4〜8月/家庭訪問調査/20~30代既婚女性/8人
「お洗濯に関する生活実態調査」
◎2022年6月/インターネット調査/首都圏在住20~60代既婚女性/2,093人
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