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花王が最初のつめかえ用製品を発売したのは、1991年のこと。それ以降、どうしたら、誰でも簡単に、しかも残さずにつめかえられるのか、ずっと研究してきました。そして、2016年に誕生したのが、シャンプーやコンディショナー、ボディソープなど、粘度の高い製品向けのつめかえ容器「ラクラクecoパック」です。
花王におけるつめかえ・つけかえ製品の数は2021年12月時点で380品目、普及率は80%強です。これらのつめかえ・つけかえ用製品が、すべて本体容器であった場合を仮定し、試算したプラスチック削減量は、2021年では77.0千トンとなりました。
※花王サステナビリティレポート2022より
本体容器よりも、プラスチック使用量を減らし、CO2削減にも貢献するつめかえ容器において、「圧倒的につめかえやすい容器をつくる」を目標に掲げて、今もなお、さらなる進化を求めて研究を続ける、包装技術研究所の久保田 遼研究員に、開発の舞台裏を尋ねました。
<プロフィール>
久保田 遼(くぼた・りょう)
2016年花王入社 包装技術研究所
「入社6年目。現在まで『ラクラクecoパック』の開発に従事。派生商品である『スマートホルダー』や『らくらくスイッチ』を進化させる研究も、日々重ねています。先輩方が続けてこられた技術開発を引き継ぎながら、さらなるユーザビリティの向上と、環境負荷の削減をめざしたいです」
——2016年に発売された「ラクラクecoパック」は、それまで発売していたつめかえ容器とどこが違うのでしょうか?
久保田:花王で従来からある、斜めにして本体ボトルに注ぐタイプのつめかえ容器は、衣料用洗剤など、粘度の低いさらさらした製品を注ぐのにはとても適していて、今も多く使われています。
しかし、シャンプーやコンディショナー、ボディソープなど、粘度の高いねばねばした製品を注ぐときは、つめかえ容器も本体ボトルも不安定になり、こぼしたり、倒したりしやすいという課題がありました。そこで、「圧倒的につめかえやすい容器をつくる」を目標に掲げて開発したのが「ラクラクecoパック」です。
「ラクラクecoパック」は、本体ボトルにプレートのついた注ぎ口を差し込むことで、しっかり安定させた状態で真上から製品を注ぐことができます。そのため、こぼすことがほぼありません。その上、片手で持てるスリム形状なので扱いやすく、本体ボトルを倒しにくいという特長もあります。
——無駄なく、最後の一滴までつめかえるための工夫も施されていると聞きました。
久保田:花王の従来のつめかえ容器で粘度の高い製品をつめかえようとすると、最後まで絞り出すのがなかなか大変でした。
そこで「ラクラクecoパック」では、変更する前に発売していたつめかえ容器よりも圧倒的に薄いフィルムを採用。これにより、上から折りたたみながら、ラクに製品を絞り出すことができるようになりました。
——お客様目線の工夫がふんだんに盛りこまれた「ラクラクecoパック」。開発にあたって苦労も多かったのでは?
久保田:苦労したのは、フィルムを薄くしつつも、いかに強度を保つかという点です。フィルムが薄いと、どうしても強度が弱まるというトレードオフの関係に陥ってしまいます。そこで、強度を確かめるために、上から落とす試験を果てしなくくり返して、適切なフィルムの薄さを探りました。
また、つめかえやすかったとしても、使用するプラスチック量が増えてしまえば、環境に負荷をかけてしまうことになり台無しです。プラスチック量を減らしながら、圧倒的につめかえやすいものをつくるにはどうしたらいいか。そこにも大きな苦労がありました。
——何千個もつくった試作品をさまざまな年齢層のお客様に試していただいたそうですが、反響はどうでしたか?
久保田:薄いフィルムを採用したことにより、上から折りたたんで絞りやすくはなったのですが、最後の一滴がなかなか出ず、もどかしいというお声が多くありました。粘度の高い製品は、どうしても最後の一滴が注ぎ口の中に残ってしまいがちなのです。
そこで、私たちは注ぎ口を改良。注ぎ口の出口よりも根元を細くすることで、最後に軽くトントンと叩けば、注ぎ口内の最後の一滴が落ちるという仕掛けをつくったのです。これは、お客様からも大好評でした。
——「ラクラクecoパック」は、それまでにないアイデアが随所に散りばめられていると思いました。さらにその使い方の進化版として、2017年には「スマートホルダー」が誕生したのですね。
久保田:「スマートホルダー」は、「ラクラクecoパック」をそのままセットするだけで使えるようにしたものです。ボトルにつめかえる時間をさらに省くにはどうしたらいいかと考えていたときに、「ラクラクecoパック」をそのまま使えばいいんじゃないか。つめかえるのではなく、“つけかえよう”という発想が生まれました。
——そして、2020年には、軽い力で押すだけで一定量が出せる「らくらくスイッチ」も誕生しました。
久保田:通常のポンプを押すには、上から力をかける必要があり、本体ボトルはその力を支えうる形状でなければなりません。その分、どうしても使用するプラスチック量が多くなります。
ならば、プラスチック量の少ない「ラクラクecoパック」を、本品としてそのまま使ってしまえばいいのではないかと考えました。その結果として生まれたのが「らくらくスイッチ」です。「ラクラクecoパック」に直接取りつけ、ドーム型のやわらかなスイッチを押すだけ。ご高齢やハンディキャップなどで力が弱い方でも、ラクに使っていただくことができるため、ユニバーサルデザインの観点もしっかり考えられたものです。
また、つり下げることによって、お風呂場の床にものを置かないようにして、掃除しやすくするということも、発想の起点となりました。共働きのご家庭が増えている中で、家事労働を減らすことは、これからの私たちの大切な役目のひとつだと考えています。
——次々と生まれる画期的なアイデアの源泉は、どこにあるのですか?
久保田:花王には「真面目な雑談」という文化があり、雑談からアイデアが生まれてくるというような風土があります。意見を気軽に出し合える、フランクな雰囲気なんです。私は入社6年目ですが、自分の年次が低いからといって意見を出さないとか、意見を控えるというようなことはこれまでありませんでした。
また、花王には「絶えざる革新」という企業理念もあります。お客様のよりよい生活のため、社会や地球環境のために、常に革新をしていくという理念です。それが、花王の社員全員に根づいていることも大きいのではないでしょうか。ときには意見が食い違って、熱い議論になることもありますが、新しいものを次々と生み出していく原動力になっているのかなと思います。
——「ラクラクecoパック」の開発によって、社会に対して貢献できたと感じることは何でしょうか?
久保田:「つめかえやすい」という、ユーザビリティの向上は、エコな選択をしやすくすることにつながるのではないかと感じています。
エコというと、環境に対して、何か“プラスアルファの努力をしなければならない”というイメージを抱いている方もいらっしゃると思うのですが、「ラクラクecoパック」のようにつめかえやすい容器であれば、自然と手に取っていただきやすく、エコへのハードルも下がるのではないでしょうか。
——最後に、久保田さんの今後の目標をお聞かせください。
久保田:「人々の生活を根底から支えるようなものを開発したい」。その思いは、入社以来、まったく変わっていません。この6年間、常に「お客様に笑顔になっていただけるものとは何だろう」と考えて、容器の開発に取り組んできました。
「この容器のおかげで、生活がラクになった」「子どもが家事に興味を持ってくれるようになった」など、これからもお客様の笑顔を1秒でも増やせるような容器開発をしていけたらうれしいですね。
花王は現在、持続可能な社会の実現に貢献する企業姿勢や取り組みを「もったいないを、ほっとけない。」というメッセージでお伝えしています。今回はテレビCM「もったいなインタビュー」のシャワーヘッドさん篇、風呂桶さん篇のテーマ、「つめかえないのはもったいない。」について、そのワケを紹介しました。次回はフライパンさん篇、コップさんとスプーンさん篇について、ほっとけないワケを紹介します!