RNAという“新しいモノサシ”が、化粧品選びの新しいパートナーに

化粧品迷子に寄り添う「肌遺伝子モード解析」とは

※花王公式noteより

みなさんは「クチコミで評判のよかった化粧品が、自分には合わなかった」「自分に合う化粧品がなかなか見つからない」——。そんな経験はありませんか?この“化粧品迷子”問題。実は皮脂に含まれる「RNA」(皮脂RNA)を知れば、解決するかもしれません。

RNAとは、「今、自分の肌がどのような状態(モード)にあり、どんなケアが求められているか」を捉えることができる遺伝子情報。なんと花王は、スマホで素顔を写真に撮るだけで、皮脂中に含まれるRNAに基づいた肌タイプ(RNA肌タイプ)を推定できるスゴイ技術を開発しました!その名も「肌遺伝子モード判定」技術。

RNAを化粧品選びの“新しいモノサシ”として使う画期的なこの技術。誕生までこぎつけるには、花王研究員の並々ならぬ努力がありました。今回は、このアイデアを生み出し、周りの研究員たちとともに形にしてきた菊池研究員に話を聞きました。

RNAによって、“肌が今”、欲しているお手入れがわかる!?

<プロフィール>

菊池 祥(きくち・しょう)
花王株式会社 スキンビューティ第1研究所 グループリーダー

2008年入社。解析科学研究所やスキンケア研究所に所属し、肌やスキンケア剤の解析や、その技術を活かした商品・サービス開発に携わる。皮脂RNAモニタリング技術の化粧品事業への応用スキームの構築と、社内外の関係者との協働を推進。

——皮脂RNAをもとに肌を解析するサービスを提供しようというアイデアは、もともと、どこから生まれたんですか?

菊池:生活者のみなさんの間に「自分の肌を知って、ベストな化粧品を使いたい」というニーズや、「どの化粧品が自分に合うのかわからない」「これまで使っていてよかったものが、急に合わなくなった」といったお悩みがあることは、生活者実態の調査などを通じてかなり前から認識していました。

肌解析サービスは進化し、「パーソナライズ」もより進んでいる。化粧品のクチコミサイトもある。それにもかかわらず“化粧品迷子”になってしまう方がいるのは、なぜなのか。どうしたらみなさんが、「自分に合う化粧品を迷いなく選べるようになるだろうか」とずっと考えていました。その突破口となったのが、「RNA」です。

——RNAって、そもそも何なんですか?

菊池:RNAは、DNAの遺伝子情報をもとに、必要な部分だけがコピーされたもの。DNAが基本的に一生変わらないのに対し、RNAは生活習慣や環境によって変わります。だからこそ、RNAを調べることで、今、肌の内部で何が起こっているのかが明らかになり、この瞬間に有効なお手入れがわかるんです。

2019年に、私たちはあぶらとりフィルムで皮脂をぬぐってRNAを解析する独自の技術「皮脂RNAモニタリング」を開発。2022年に「エスト スキンアスリートジム」の会員向けサービスとして活用を開始しました。
▶参考記事:皮脂RNAの情報をもとに“肌の今”を解析!「スキンポテンシャルアナリシス」にかける研究員の熱き想いとは?|花王 公式note編集部

ただ、利用できる方や機会が限られていたため、より多くの方に使ってもらえるしくみも必要だと思いました。

誰もが簡単にRNA肌タイプを知り、自分に合う化粧品を選べるようになったら?

——「RNA肌タイプ」という発想は、どんな気づきから生まれたのでしょうか?

菊池:皮脂RNAをベースにした肌タイプ分類に取り組んでいる研究員がいると聞いていました。従来の肌分類は、「乾燥肌・脂性肌」など、肌表面にあらわれた“結果”に基づく分類です。それに対し、皮脂RNAによる肌タイプは、「なぜ今、乾燥しているのか?」など、肌表面にあらわれている現象の“原因”に基づく分類になると感じました。

皮脂RNAの基礎研究に取り組んでいる研究員

私たちは、「この全く新しい肌タイプは、生活者にどのような価値を生み出せるのか」というディスカッションを重ねました。その中で、「私のRNA肌タイプは○○で、この化粧品は合った/合わなかった」というように、化粧品の評価とRNA肌タイプをセットでみることができるようになれば、自分に合う化粧品に出会える確率が上がるのではないか。そんなアイデアが生まれました。めざしたのは、「誰もが簡単に」自分のRNA肌タイプを知り、化粧品を選べるようにすることです。

同じRNA肌タイプのクチコミから、“自分に合う”化粧品が見つかるという構想

このアイデアは、研究所横断の大規模な開発プロジェクトへと発展していきました。自社の技術を社外にオープンにすることになるので、慎重な見方もありましたが、花王の研究員の根っこには「生活者のみなさんに喜んでもらいたい」という共通の想いがあります。最終的には、「化粧品迷子をなくしたい」という目標でつながることができました。

肌タイプ分類は本当に可能?答えを探るべく5,000名以上の皮脂RNAを解析

——開発は一筋縄ではいかなかったのでは?

菊池:今、振り返ってみると、改めて凄まじく大変だったなと(笑)。最初に立ちはだかったのが、そもそも本当に皮脂RNAで肌タイプを分類することに意味があるのか、また何タイプに分けるのが最適なのかという課題です。

まずは、日本最大級の化粧品のクチコミサイト「@cosme」を運営するアイスタイルさんに相談を持ち掛け、共同取り組みを開始。@cosme会員の中で承諾をいただけた5,000名以上の方の皮脂を採取して皮脂RNAを解析しました。

この膨大なコストと時間のかかるデータ収集を行った結果、突き止めたのは、どうやらRNA肌タイプは、まずは大きく2つに分かれ、さらに細分化されていくということです。それらを@cosmeのクチコミと結びつけ、RNA肌タイプと商品評価の関係性を検証。すると、この2つの肌タイプ分類は、同じ商品でも評価に違う傾向が見られることが多く、「これは役立ちそうだ」という手応えを感じました。
▶ 化粧品のクチコミサイト「@cosme」:https://www.cosme.net/

もう無理かも……。RNA肌タイプの違いを画像で捉えるまでの果てしない苦悩

——今回の「肌遺伝子モード」解析は、スマホで素顔の写真を撮るだけで、RNA肌タイプがわかるんですよね。そうしたアイデアはどのように生まれたんですか? 

菊池:プロジェクト開始当初から、「誰もが簡単に使える形にするにはどうすればよいか」を議論してきました。スマホで素顔を撮影すると、シワやキメなどのスコアが出るというサービスはすでに世の中に存在していました。こうした技術をヒントに、「RNAに基づく肌タイプも撮影した画像から推定できないか」という検討を始めたのです。しかし、このアイデアの実現には、大きな壁がありました

「本当にそんなことが可能なのか」といった声も多く、実際にサービスとして展開するには、どこまで信頼性を担保できるのかが課題となっていました。

画像からRNA肌タイプを推定する方法を議論する研究員たち

——どんなことが特に大変だったんですか?

菊池:まず、データをそろえ、この顔画像は「タイプ1」、この顔は「タイプ2」というように、一般的な方法でAIに学習させていったのですが、判定精度が、もうまったく上がらないわけです。「どうすればRNA肌タイプの違いを画像で捉えられるのか」、長く試行錯誤が続きました。

——突破口が開けたきっかけは?

菊池:事態を打開したのは、“研究員の目”でした。誰よりも多くの肌を見てきた肌画像解析を専門とする研究員が、「肌のこういう色ムラが違う」など、RNA肌タイプを見分けるポイントをピックアップ。研究員の感覚をAIが解釈できるよう数値化し、学習させたところ、少しずつ判定精度が上がるようになりました。

その後、専門研究員も拡充され「顔画像からRNA肌タイプを推定する」技術へと結実しました。単なる画像解析でもAIでもない、長年の花王のスキンケア研究の知見があったからこそなし得たことだと言えます。

左から、中村研究員、柳澤研究員、菊池研究員、市橋研究員、岡田研究員、内橋研究員

“自分に最適”を迷わず選べる時代へ。「RNA共創コンソーシアム」を設立

——「肌遺伝子モード」解析は、2025年5月に、@cosmeの「お肌のケアどき診断」として提供開始。今年に入ってスタートした花王のサブスクリプションサービス「SOFINA SYNC+」「THE ANSWER PROGRAM」にも使われています。今、率直にどんなお気持ちですか?

菊池:多くの方に使っていただける状況になったことが、心からうれしいです。本当にここまできたんだなと、安堵しています。今後はみなさまからのご意見をうかがいながら、よりよいサービスやしくみに進化させていきたいです。
▶ 「肌遺伝子モード」解析はこちら
【公式】花王 ソフィーナ SOFINA SYNC+ 肌遺伝子モード解析 
THE ANSWER PROGRAM |サービス紹介

——この取り組みを、これからどう広げていきたいですか? 

菊池:実は2024年3月に、花王とアイスタイルは「RNA共創コンソーシアム」という新たな枠組みを立ち上げています。「何が自分に合うかわからない」という悩みは、化粧品に限ったことではありません。例えばサプリメントなどでも、どれが自分に合うのか迷うことはありませんか?RNAを知れば、美容や健康などのあらゆる分野で、自分に最適なものを選べるようになるかもしれません。

RNAという“新しいモノサシ”で自分を知り、「自分にとって本当に価値のあるもの」を選べるようになることをめざして——。共感してくださる方々と共創(Co-creation)しながら、生活者のお役に立てればと考えています。ぜひ、今後の発展にもご期待ください。

編集後記

「自分に合う化粧品がわからない」という生活者の悩みに向き合い続けてきた研究者の地道な取り組みに、強い想いを感じました。この“新しいモノサシ”が、多くの方にとって化粧品選びのヒントになればうれしいです。

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