シェアする
経済的な理由などから化粧品を手にできない女性に、行き先の決まっていない化粧品を無償でお届けする一般社団法人バンクフォースマイルズの「コスメバンク プロジェクト」。花王は、2022年の母の日に向けた「春夏ギフト」から、年間を通して支援していく運営コミッティのボードメンバー企業として参画しています。
花王は、一人ひとりの「もったいない」という思いが、人、社会、地球のより良い未来につながると考え、「もったいないを、ほっとけない」という企業コミュニケーションを7月から展開しています。「コスメバンク プロジェクト」はまさに、志を同じくする活動です。プロジェクトの発起人であり、日本最大級のコスメ・美容の総合サイト「アットコスメ」の共同創業者でもある山田メユミさんに、花王執行役員・PR戦略センター長の村田真実が、発足の背景や今後の展望についてうかがいました。前編、後編に分けてお届けします。
<花田メユミさん プロフィール>
化粧品メーカー在職中、個人の趣味で始めたメールマガジンへの反響をもとに日本最大級のコスメ・美容の総合サイト「アットコスメ」を企画立案。サービス立ち上げを牽引し、1997年7月に「アットコスメ」の運営会社となる(株)アイスタイルを共同創業。現在も同社取締役を務めるほか、上場企業の社外取締役やアドバイザーを兼任。2児の母親として育児と仕事の両立にも奮闘中。「母の鏡台に置いてあった化粧品や香水の瓶に憧れたのが、化粧品との最初の出会い。モノづくりの仕事をしたいと思ったときに、迷わず化粧品を選びました」
村田:実際に、あるひとりの女性の話を聞かれたことが、このプロジェクトを始めるきっかけだったそうですね。
山田さん:この約2年半で生活が苦しくなってしまった方が増えていると思いますが、なかでも一人親の女性たちにしわ寄せがいっているのではないかと感じています。
支援団体の方にお話をうかがうと、そういった女性たちは、自分の生活や食事を制限しながら、子供になんとか食べさせている。さらに、それさえもままならなくなっている方もいるということでした。
「子供のハレの日にメイクをしたかったけれど、口紅ひとつ手に入れられなくて、マスクで素顔を隠して参列するしかなかった」という方のエピソードを聞いたときは、とりわけショックが大きかったです。
これまで化粧品とは、幸せな社会になることを願って存在するものだと信じてきたのに、化粧品がないことで悲しい思いをしている方々がいる。そのことに気づかなかった自分を恥じるような気持ちにもなりました。
村田:化粧品を手にできないことで悲しい思いをしている方々がいらっしゃるとは、私たちもなかなか気づけませんでした。
山田さん:見えにくいところですよね。
一方で化粧品の業界を見てみると、行き先のない商品をゼロにすることはできないという課題があります。それならば、両者をおつなぎしたい。必要としているのに手にできない方々に、お届けしない理由はないと思いました。
化粧品は、生活にオンとオフのメリハリをつけたり、自己表現をしたりするために欠かせないツール。ひとの幸せや尊厳に深く結びついていると思うのです。
その化粧品を手にできない方々の現状を知れば知るほど、どのように支援させていただくのがよいのか、深く考えるようになりました。
村田:ご自身が使う化粧品にお金をかけることに、うしろめたさを感じてしまうという方もいると聞きました。
山田さん:経済面だけでなく、「自分が装っている場合じゃない」と、精神面から自らを追い込んでしまう女性も一定数いらっしゃると思います。また、そうした姿勢を世間からも要求される。無言の圧力というのでしょうか。私も子育てをしているひとりの母親として、それは感じます。
食べ物や子供のものに関しては「欲しい」と声を上げることができても、自分の化粧品となるとなかなか言い出しにくい。一方、企業様のほうでも、化粧品は生死に関わるものでないだけに、なかなか手を差し伸べづらかったのではないでしょうか。
本来は化粧品も「生活に必要不可欠なもの」と胸を張って主張していい。この活動を始めてから、化粧品がそのような存在であることに気づきました。
村田:参加されている他の企業さんからの反響はいかがですか?
山田さん:花王さんをはじめとして、化粧品の企業様に「コスメバンク プロジェクト」のお話をさせていただくと、「必要とされている方がいらっしゃるのなら!」と、ビジネスとは無関係に、心から応援してくださるんですね。とてもありがたく思っています。最初は小さな規模でスタートするつもりだったのですが、ときには企業様が企業様を連れてきてくださるというようなこともあり、結果として大規模になりました。共感してくださる方々の間で、プロジェクトが自走し始めたということだと思います。
これは、「アットコスメ」を立ち上げたときにも似ています。途中から、その存在が勝手に走り始めるという感じ。
こうした類いの活動は、どうしても寄付をしている側と受けとる側の二極に見られがちですが、決して、川上川下の関係ではありません。
企業様にとっては、大事に産んだわが子のような商品を、行き先がない場合においても喜んで使ってくださる方がいるというハピネスがある。もちろん女性たちにとっても、なかなか自分のことに手が回らない状況の中、化粧品を受けとれることはハピネスにつながります。
その後は、女性たちが使ってみた感想を企業様にフィードバックする。それがいつか、商品開発や販売活動のヒントになることもあるでしょう。
このように、ハピネスが好循環していく取り組みだと思うのです。