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髪を傷めずに、
白髪を本来の色に戻したいーー
その課題は、本来髪にある色素「メラニン」を、どう白髪に補うかということでした。そして長年の研究の末、酒造りの過程で麹が黒く変化する現象を応用して生まれたのが「メラニン前駆体」。髪の表面に定着することで、髪に自然な色合いとツヤをよみがえらせることができます。
髪にもともとある成分を「補う」という発想で生まれた白髪ケア。
そのメカニズムや特性、誕生の軌跡をお伝えします。
*この記事は花王の染毛技術に関する内容です。
人によって髪の色はさまざまです。黒髪、ブラウン、赤みがかった髪――。同じ人でも、年齢を重ねるにつれて白い髪が混じってくることもあります。
ではそもそも、なぜ髪の色は違うのでしょうか?
それは、「メラニン」という色素の種類と量が違うから。
メラニンとは、髪の色を生み出す天然の色素で、黒色のユーメラニンと赤褐色のフェオメラニンの2種類があります。ユーメラニンが多ければ黒髪に、フェオメラニンが多ければ赤毛に。そして、総メラニン量が多いと髪色は暗く、少ないと明るくなります。
そして白髪は、このメラニンの総量が減少した髪のこと。メラニンが作られなくなると、髪の色素は失われ、白い髪が生えてくることになります。
白髪とは、髪からメラニンが失われた状態のこと。であれば、髪に本来あるメラニンを補うことで、白髪になる前の本来の髪と同じような性質を持たせることができるはず。
しかし、メラニンを髪に補うには大きなハードルがあるのです。それは、水に溶けないことと粒が大きすぎること。だからこそ、髪本来の色を再現するのは長年難しい課題とされてきました。
一方、水に溶けず粒が大きいことは、すなわち、メラニンを髪に定着させることができれば、容易に溶け出したり流れ出したりせずに色を長持ちさせることが可能になる、ということでもあります。
つまり、メラニンの性質は、使いこなすことができれば高い機能を発現することができる事実の裏返しなのです。
黒くなったメラニン前駆体はキューティクルに届かない!
開発過程で苦労した点とは?
花王株式会社
ヘアケア研究所 主任研究員 島津綾子
メラニン前駆体は空気に触れるとたちまち黒くなる性質があります。そして黒くなったメラニン前駆体はキューティクルに届けることができず、髪を染めることができなくなってしまいます。そのため、原料の状態から商品にして、お客様が使用する瞬間まで、メラニン前駆体が空気と触れないようにする必要があります。商品開発過程における実験、試作品作成もとても気を遣いました。
例えば、メラニン前駆体を配合した商品を実験室で試作するときは、グローブボックスという密閉された箱の中で行います。その名の通りグローブのついた箱の内部を窒素で満たし、酸素濃度を0.01%未満に保った状態で、クリームとメラニン前駆体を慎重に混ぜ合わせます。
そして厚手の手袋越しに小さなスポイトを持って天秤で計量したり、ビーカーから容器に移したり。これは非常に操作性が悪く大変な作業でした。
エアコンがついているとはいえ、1時間以上この中に手を入れて実験することもあり、夏場は汗だくに。実験開始時には必要な原料や実験器具をあらかじめ箱の中に入れてから窒素で満たし、酸素濃度が規定値になったら実験をするのですが、うっかり必要なものを入れ忘れると箱を開けて最初からやり直しになるので悲劇です。
グローブボックス
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メラニン色素より小さなメラニンをつくることができれば、髪の中に届けることができる——。その発想のもと、日々研究を続ける中で花王が着目したのが「メラニン前駆体(DHI技術)」でした。
この技術は、植物から抽出した天然由来のDOPAに麹菌由来の酵素チロシナーゼを作用させ、メラニンのもととなるDHI(ジヒドロキシインドール)を生成し、安定的に供給できるようにしたもの。メラニン研究と発酵技術の融合から生まれた、新しい白髪ケアの礎となるものです。
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以下の論文に花王と月桂冠の共同研究結果について発表しております。
小池謙造, 秦洋二. (2010) 天然由来メラニン前駆体の開発とそれを利用した簡便な染毛技術, Fragrance Journal 38(2):16-20.
小池謙造. (2011) メラニン前駆体を利用した新しい染毛技術, 皮膚と美容, Vol.43, No.1, p.21-27.
中村幸広, 山中寛之, 秦洋二, 江波戸厚子, 小池謙造. (2012) 生物工学会誌, 第90巻, 第3号, p.115-121.
私たちの髪の色を生み出すメラニンは、もともと体の中でつくられる色素です。髪の根元にある色素細胞(メラノサイト)が、髪をつくる細胞にメラニンを受け渡すことで、黒や茶など本来の髪色が生まれます。
花王が着目したのは、この「髪色が生まれる仕組み」そのもの。体内では、アミノ酸の一種であるDOPAという成分が、酵素チロシナーゼの力で酸化され、やがてメラニンへと変化していきます。
このプロセスをヒントに、花王と月桂冠は発酵の力を応用して、生体内と同じ仕組みでメラニン前駆体を作りました。
植物から得られる天然のDOPAに、麹由来の酵素チロシナーゼを働かせて、メラニンのもと(DHI/ジヒドロキシインドール)を生成。化学的に合成するのではなく、自然の反応を活かしてつくり出す——つまり、メラニン前駆体は「100%天然由来」の成分だけで構成されています。
清酒業界では以前から、酒粕に黒い斑点が生じる「黒粕(くろかす)」という現象が問題となっていました。この現象の原因を明らかにするための研究が盛んに行われ、やがて黒い斑点の正体に「メラニン」が関与していることがわかりました。
そして、伝統的な酒造メーカー「月桂冠」は、この黒粕を解明した結果、米麹菌が産生するチロシナーゼという酵素がその原因であることを発見しました。
一方で花王は、「メラニンで髪を染めることはできないか?」という発想から、メラニンのもととなる成分での染毛技術を研究していました。 そんな中、月桂冠が発表したこの知見に着目した花王は、「白髪ケアへの応用が可能ではないか」と考え、2001年から本格的な共同開発をスタート。 その結果、月桂冠は、メラニンの構成成分であるDHI(ジヒドロキシインドール)を、安定的かつ工業的に生産する技術の確立に成功。 花王は、そのDHIを用いた染毛方法と染毛技術の開発に至りました。
本来は交わることのなかった「染毛」と「醸造」という二つの分野が融合し、髪を傷めずに自然な色を再現する新しい染毛技術が誕生したのです。
月桂冠
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「メラニン前駆体」は、毛髪表層のキューティクルの内側にしっかりと定着します。
カラートリートメントなどに用いられる染料の多くが、すすぎ水に流れ出て、色が抜けやすいのに比べ、メラニン前駆体は、成分同士が結合し、キューティクル内で水に溶けにくい大きな構造体をつくるため、洗髪を繰り返しても色が落ちにくく、色持ちがいいという特長があります。
さらに、「メラニン前駆体」がキューティクルに定着することによって、毛髪の弾性が高まり、
髪1本1本にハリやコシが生まれます。
染めながら髪がしなやかに強くなっていく——。
それが「メラニン前駆体」による自然なハリ・ツヤの秘密です。
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色持ちの違いを動画で比較
メラニン前駆体の場合
直接染料を使ったカラートリートメントの場合
メラニン研究から生まれた成分だからこそ実現できる「自然な髪色」「カラーしていない髪と同様にヘアカラーへの制約がない」などの利点については、こちらをご覧ください。
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白髪染めのシーンでどのようなメリットを得られるのかは、生活・美容編「髪に本来ある色素成分で白髪をケアする発想。「黒髪メラニンのもと」で、しっかり染めと色持ちを叶える」の記事でぜひご覧ください。